ウィンターシーズン
「ううう、忙しくなって来たぁ!」
わたしは、漫画用原稿用紙と睨めっこしていた。
「市川先パイの漫画って、企業タイアップのスノボ漫画ですからね。これからが本番じゃないですか?」
ウチに手伝いに来てくれていた、田中さんが言った。
「他の学校なのに、わざわざ娘を手伝いに来てもらって、ゴメンなさいね」
お母さんが、ケーキと紅茶を田中さんのテーブルに置いた。
「いえ、お構いなく。わたしも漫画の技術をアップできますので」
「そお? 娘ったら、漫画で稼ぐようになっちゃって。いっそ、そっちの道に進むのもありかなって、最近思ってるんですのよ」
「も、もう。お母さん、用が済んだら出て行って。気が散るじゃない!」
お母さんったら、恥ずかしくて仕方がない。
「でも、理解のあるお母さんで、良かったじゃないですか?」
「まあ、バイトするより稼いじゃってるからね」
「他の先パイ方と違って、連載ですからね。毎月振り込まれますもんね」
「そ、そうなんだよォ。お母さんたら前は勉強しろってうるさかったのに、最近はお金に目がくらんじゃって……」
「それは仕方ないですね。それに、娘の夢を応援もしてるんじゃないですか?」
「そうかなあ? でも、わたしの漫画も、いつまで契約して貰えるか……」
「何を言ってるんです。スノボサムライですよ! これからウィンターシーズン真っ盛りじゃないですか?」
「そうなんだケド、わたし……スノボ漫画描いてるクセに、スノボやったコト無いんだよ?」
「それは別に……宇宙を題材にしたロボットアニメなんて、たくさんやってますよ? アニメーターも監督も、まず宇宙パイロットじゃないじゃないですか?」
「極端だなあ……でも、せめて現地に行ってみたくはあるよ。雪が積もったコースを実際に見るだけでも、違うと思うんだ」
「コースも競技も、今は動画で見れますが、やっぱ本物は違うんでしょうか?」
田中さんは、紅茶を飲みながら言った。
「グンナーさんの滑ってる動画なら、何度も見たし迫力もあるんだケド……」
「それなら宇津井さんって人か、グンナーさんに打診してみましょう?」
いきなりスマホを取り出す、田中さん。
「え、してみましょうって……まずはお兄さんに、確認取ってからでないと!?」
わたしは慌てて止める。
「それもそうですね。それじゃあ、しゃちょーに聞いてみましょう」
「うわあああ、そ、そそ……そんな急に!!?」
「やっぱ市川先パイも、しゃちょーのコトが好きなんですね?」
「あ……や……?」
わたしは、言葉が出なかった。