コスパ最強・カロリーMAX
「まったく……これは、追い駆けなければならんのだろうか?」
ボクは頭に疑問を浮かべながらも、ドアにカギをかけてカネちーを追った。
「ゼハー、ゼハー、ゼハー、ゲホッ!!」
カネちーは、アパートから100メートルほどの、ゴミ置き場の辺りでうずくまっていた。
「も、もう追いついて来やがったのか!?」
台詞はカッコイイが、やってることは凄まじくみっともない。
「さすがは、ヒッキー。見事なまでの、持久力の無さだ」
「う、うるさい。漫画家にマラソンの能力など要らん!」
森兼 明人は、気位の高さだけは一人前だった。
「どうだ? ハンバーガーでも食うか?」
「む……そうだな。仕方あるまい」
ボクはカネちーを連れ、近くのハンバーガーショップに向かった。
「モーニングのソーセージマフィンセット二つ」
ボクが注文すると、店員さんがお決まりの台詞を返して来た。
「お飲み物は何にしましょうか?」
「コーラ。あと、ソーセージマフィン、三つ追加で」
カネちーはコスパ最強、カロリーMAXな注文をした。
「どうせ何も食べずに、漫画を描いていたんだろうが、いつから喰ってない?」
「昨日の昼くらいから?」早死にしそうな答えが聞けた。
「もう一度、ネーム見せてくれ」「ホレ……」
食べるのに夢中な森兼 明人は、喰い終わるまでと言っているようにも見えた。
「やっぱ、勢い有り過ぎだろ……例えばこの辺に、ただ広大なだけの背景のコマを置く。それだけで読者は、いったん世界の奥行きを見られるんだ」
「偉そうに……だが、試してみる価値はあるな? 他にないか?」
「そうだな。カネちーは、精密描写が恐ろしく得意だが、小さなコマのキャラまで細かく描いてしまっている」
「それがマズイのか?」「多分な」ボクは答える。
「有名な漫画家は、見せゴマや抜きのキャラは細かく描くが、小さなコマはあえて手の抜いたキャラを使っている。つまり、最低二種類のキャラを使い分けてる」
「なる程……言われてみれば、そうとも言えるな」
カネちーは、Sサイズのコーラで四つのソーセージマフィンを流し込んだ後、コピー用紙にペンを走らせる。
「まるで子供がクレヨンで、画用紙に絵を描いてるみたいだな」
「うるせえ。でもまあ、近いのかもな」
コピー用紙にスラスラと、簡略化されたキャラクターたちが描かれていく。
「こんな感じか? 一枚絵と違って漫画の場合、メリハリが大事なのかもな?」
「オレ……この後、市川さんの漫画の打ち合わせがあるんだ」
「そっか……オレはもう少し、描いてく」
「乗ってる漫画家を、途中で引き留めるのもアレか? オレは行くぞ」
「おう、またな」カネちーは、またなと言った。
ウィンターシーズンを前にして、市川さんのスノボサムライ漫画は慌ただしさを増していた。