スノボ合宿
「よーするに、一人では素早く動ける、大勢でやれば凄いコトができる……どちらのメリットを生かすべきかって話っスね?」
「流石はビジネスマンの国、オランダってトコだよな」
佐藤が言った。
「オランダって、そんなにビジネスの国なんスか?」
「オランダ東インド会社は、世界発の株式会社だとも言われてるし、オランダ人自体がビジネスライクで合理主義なんだよ」
「へ~、佐藤先生って物知りっスね」
「原田先パイ、佐藤先生に色目つかわないで下さい!」
佐藤の前に、池田さんが仁王立ちをする。
「いや、使ってないっス」
芽美はそういうと、ボクに背中を預けた。
「それにしても、ウチはどうなんだろう? 漫画家のみんなとは、雇用契約じゃなく仕事を振っている関係だしな」
「つまり社員はゼロで、経営者のお前一人ってコトか?」
「一人の編集なんて、変わってますよね?」
田中さんが言った。
「そもそも、ネット漫画を連載している企業も、あまり聞かないからね」
「でも漫画家全員、お兄さんの仲間ですよ。だから、遠くにだって行けちゃうんです。合宿とか!」
市川さんは突然、雪山のパンフレットをテーブルの上に置いた。
「スノボの取材をしたいって、言ってたもんな。市川さんと、アシである田中さんは、宇津井さんや、社長の方にも話を通してあるよ」
「あそこの社長も実は、スポーツ用品の大手販売店を経営しているだけあって、昔はゲレンデで女のコ相手にブイブイ言わせてたみてーだしな」
「え、そうなんですか!? けっこう強面な社長さんですよね、今は……」
「だから昔の話だよ。最も当時は、スノボじゃなくてスキーだったらしいがよ」
夜吸さんから、意外な話が聞けた。
「そ、それでですね。スノボ合宿、みんなで行きませんか!」
市川さんが、勇気を振り絞ったように言った。
「え? でも、スノボ合宿と言っても、実際にスノボをやるワケじゃなく、あくまで取材や撮影がメインなんだよね?」
「みんなでと言われても、オレたちまで付いて行って、いいものなのか……」
サッカー漫画を描いている佐藤には、ゲレンデは関係の無い場所だった。
「で、ですから、ここを見てください!」
市川さんは、パンフレットの一部を指さした。
「ん……温泉!?」
「ひょっとして、みんなで温泉旅行に行こうって話っスか!?」
ゲレンデは当然ながら山の斜面にあり、日本の多くの山には温泉が湧いているのだ。
「はい、みんなで雪山温泉合宿をしましょう!」
雪山のゲレンデまで行っても、一切スキーもスノボもやらないという、いかにもネット漫画雑誌にふさわしい合宿が、提案された。