インクの香りが、鼻腔をくすぐる。
墨汁とはまた違った感じの、整然とした匂いだ。
ボクはGペンにインクをしみこませて、おろしたての原稿用紙に線を描いてみた。
「なる程、こんな感じか? コツは入りそうだが、何とかならないでも無いな」
製図用インクは、証券用インクと比べて、水に滲んでしまう特徴があるが、その分描きやすいそうだ。
「ま、ボクはさほど、手汗は描かないし、製図用インクで良さそうだ」
便利な時代である。漫画の知識の無いボクでも、知識はいくらでもネットに転がっているのだ。
「それじゃあ、本格的に、キャラでも描いてみるか?」
今度はシャープペンシルでキャラの下書きをしてから、線の上をGペンでなぞった。
「クッ、シャープと違って、ペンに向きがあるのが厄介だな? なかなか上手く、なぞれやしない」
Gペンは、Gと浮彫で刻まれている面を上にして、引くようにしないとインクが出ない。
「それに、何度も消しゴムをかけてちゃダメだな。紙の表面がけば立って上手くインクが乗らなくなるぞ」
それまで、よくある油性ペンなどを使って、イラストを描いていたボクには、Gペンはなかなかに手ごわかった。
「確か、丸とか描いて練習しろってあったよな? クウ、こりゃ大変だわ」
得意とするキャラクターで、結構な大変さなのだから、枠線引きや背景の事も考えると、相当に煩雑な作業であると理解できた。
「これで、ベタ塗って、トーンも貼らないといけないのかあ・・・マジむりかも?」
とりあえずペン先のインクをティシュで拭き取って、原稿用紙を片付けた。
「次は、ペンタブ行ってみるか? 最近じゃ、ペンタブ使って漫画を描いてる漫画家も増えてるって話だし、自分にどっちが合ってるか試してみないとな」
パソコンは自作で、それなりのグラフィックボードも積んでいるので、ある程度の作業ならこなせるスペックだ。
ボクはパソコンのUSBポートに、買ってきたタブレットを差し込んだ。
「しっかし、ペンタブも安くなったよなあ? ソフトはなんも入ってないとは言え、1万円を切るなんてな」
ボクの手は、ペンタブのペンを握りしめていた。