「さて、ペンタブの方はどんな感じだ?」
安くなったとは言え、8000円もしたんだ。
せめて、元は取れるくらい使いたい。
「うっ、これはかなり厳しいな。思ったような線が描けない」
ペンタブでの描画は、かなり癖の強いものだった。
「とくにこの、下から上に上がる線とか、無理じゃね? 紙なら、キャンパス自体を回せば、描きやすいポジションで描けるケド、タブレットじゃそうもいかないな」
当然これは、ボクの持っているのがペンタブレットであり、ソフトもあまり気にせず無料のモノを使ってしまったせいでもあった。
「紙にGペンで描いたときみたいな、勢いのある線が描けないな。やっぱ、ペンを練習するしかないのか?」
ボクは再びGペンに持ち替えて、紙にキャラを描いてみた。
「うん、まだこっちのがしっくりくるな」
確かにタブレットよりは思った線が引ける。
「でも描いたイラストは、スキャナーで取り込まないといけない? もしかして、スキャナー買うべきだった?」
しかし、タブレットを買ってしまった今となっては、後の祭りだった。
それに描いたイラストも、ネットのお絵かき掲示板で見るような完成度には、程遠かった。
「やっぱ、下書きをしなきゃ、上手く描けないな。そんじゃ、下書き・・・ああっ、しまった!」
シャープを取ろうとしたとき、服の袖が原稿用紙を擦って、インクが滲んでしまった。
「ゲッ、最悪! 白いシャツに、黒いシミかよ」
洗濯したところで、取れなさそうなシミがついてしまった。
「あ~あ、絵もせっかく描いたのに。こんな時、CGならやり直せるんだがなあ」
ボクは再び、ペンタブレットに持ち替えようとしたが、やる気は起きなかった。
「ま、今日のところは寝るか」
ボクはベットで寝転びながら、今日試した事をネット通信アプリで佐藤に伝えた。
「なんだ、佐藤も似たようなモンじゃん。でもアイツは、3ページは描いたのか? 自慢するホドでもないだろう?」
情報交換を終えると、ボクはインクの付いた手を、部屋の蛍光灯にかざした。
「ま、簡単じゃないとは思ってたケド・・・こりゃ、簡単じゃねえわ」
ボクはその日、ネット漫画雑誌など遠い夢だと、実感した。