ニートの決意
「こいつは、オレのFラン大学時代の友人で、今はニートの佐藤って言うんだ」
「前に、ニート舐めるなって、叫んでた人っスね?」
「え、Fランは要らんだろ? ニ、ニートってバラすな! 普通に大学の同級生だったって紹介しろ!」「わ、悪い悪い」
ボクは何気に、佐藤に対する女子高生たちのハードルを、下げようとしていた。
「あッ……えっと、オレ……ママ、ママ」「ママがどうしたっスか?」
「佐藤は、漫画家になりたいって言いたいんだよ、ホラ」
ボクは、佐藤のネームのコピーを、芽美に渡した。
「フムフム、サッカー漫画っスか? どれどれ?」
芽美はパラパラと、ネームを読み進めた。
「どうかな?」「ど、どうっスかねえ?」
「オレは意外と、面白いと思うんだが……」「そ、そうっスね」
芽美にしては、歯切れが悪いとボクは感じた。
「ちなみに、絵はどうなんスかねえ?」
「そうだな、とりあえずこの、主人公の少年とか描いてくれよ」
「わ、わわ……わかった」佐藤は、震える手でキャラを描く。
「オイオイ、シャーペンの線が、グニャグニャじゃないか?」
「深呼吸でも、してみたら?」「はいいいッ!!」
萩原さんに言われ、真っ赤になりながら深呼吸をするメガネ。
ボクだけの前では、凄まじく雄弁な佐藤も、四人もの女子高生の前では、凄まじく情けなかった。
「昔描いたのが、スマホに入ってなかったか?」「あ……ああ」
「たぶんっスけどね。シャーペンの絵は、まあまあ描けると思うっスけど、Gペンや丸ペンで描くのは、修行が必要っすね」
それを見た芽美が指摘する。ボクも、芽美と同じ感想だった。
「オレも全然描けないから、人のコト言えんが、本気で漫画家を目指すんなら、ペンに慣れておく必要はあるよな」
「ああ……そのつもりだよ」佐藤はめずらしく、折れなかった。
「少なくとも、お前はアパートに呼んでも、構わんだろ。今から来るか?」
「ああ……家だと怠けそうだからな。頼むわ」
「じゃあ、あたしたちは、萩原のマンションで描くっス。お兄さんのアパートの次に、環境が整ってるっスからね」
萩原さんには、中古のノートパソコンが渡してあった。
「一度、ウチに寄っていかないか? こないだパソコンをパワーアップしたときに、もう一台分くらい組めそうだったから、組んでおいたんだ」
「だからパソコンが一台、増えてたっスね?」「中身は前のだケドね」
ボクは佐藤と共に、サブのパソコンを萩原さんのマンションの前まで運んだ。
その後、アパートに戻ると、佐藤の漫画のペン入れに入った。
「これでも漫画のノウハウを、芽美から色々教わってるんだ。ビシバシ行くぞ」
「オ、オウ!」今回の佐藤は、少しはやる気がありそうだった。