クレーマー
「じ、実はですね。彼女たちは、ボクのアパートで、漫画を……」
「それは解かっています。ですが、世間はそうは見ないでしょう?」
末依 乃梨は、極めて冷静に言った。
「集まる理由が漫画制作というのも、問題でしょうね。世間に認知されてません」
「それじゃあ、アイドル活動だったら、良かったっスか?」
「そちらの方が、まだ説明し易くはありますね」
ボクは、この豊満ボディの担任教師の言葉尻から、ある推測を立てた。
「それって、学校側に、クレームがあったってコトですよね?」
末依 乃梨は、しばらく押し黙ってしまった。
「え、ええ……そうですね。何件もクレームが入っているのは、事実です」
「まったく、どこのどいつが文句いってんのさ?」
萩原さんが、担任に詰め寄る。
「匿名のSNS。それに掲示板。学生は、学業に専念すべきだという意見も、未だにあります。少なくとも、男女が同じアパートで遅くまで作業をするのは、問題でしょう?」
担任の教師は、生徒たちに問いただした。
「で、でも、塾なんかじゃ、もっと遅くまで拘束してるじゃん」
「お兄さんは、七時には返してくれるっス」
「それにさ。終身雇用が崩壊してんのに、学業だけに専念しろって、頭おかしいんじゃないの?」
萩原さんの意見に、末依先生は大きなため息を付いた。
「わたしだって、それは感じています。むしろ、漫画という特技を、お金に変えれるのであれば、あなたたちにとって貴重な体験になるうでしょう」
「だったら……」「でもね、学校にクレームが何件も届けられて、何の対処もしないワケには行かないの。今の時代、クレームも拡散されて、それが現実世界に飛び火して、実際に抗議に来る親御さんだっているのよ」
「それって、乗せられてるだけじゃ……」萩原さんの言葉は、途中で遮られる。
「ゴメン……萩原。それって、わたしたちのせいかも知れない……」
「そ、そうだね。わたしたちで、ネットに拡散させちゃったから……」
肩を落とす、山口さんと大野さん。
「二人のせいなんんかじゃないよ。ボクが甘かったんだ」
「そ、そんな。お兄さんが謝る必要なんて、ないっスよ?」
「いや。フリーランスとして、責任はあるよ」
「ま、また、辞めちゃうなんて、言わないっスよね?」
「ああ……もう、逃げない」芽美の不安そうな顔に、ボクは決意を固めた。
「では、どうするのです? 現時点で問題も起こしてないのに、活動の中止を学校側から要請するコトはできませんが、アパートへの立ち入りは控えてもらいます。間違いが起こってからでは、遅いですからね」
「ちょっと待ってよ! 間違いってなにさ!」
「こんなデカい胸しといて、ふ、ふざけんなっす!?」
芽美と萩原さんは、担任教師の後ろに回って、巨大な胸をモミほぐす。
「きゃああッ!! い、いやぁ……あたなたち、やぁん……止め!!?」
「うわあ、お前ら、やめろォーー!!?」
ボクは、二人を引っぺがした後、学校を出た。